京都アニメーションの悲惨な事件が起き、本来とは違う形で注目を浴びてしまいました。
ファンからするとこんな形で有名になってほしくなかったというのが本音でしょうか。

一般の人からするとアニメと言えばジブリやワンピース、コナンなどですよね。
最近だと新海誠の「君の名は。」なんかも知名度はありますよね。

一方で京アニ制作でまだ知名度がある有名作品とすれば「涼宮ハルヒの憂鬱」「らき☆すた」「CLANNAD」「けいおん!」などになると思います。
しかしどの作品も聞いたことがないと思う人は少なくないかもしれません。

聞いたことがないからメディアで「アニメ界の重大な損失」と言われてもわかりませんよね。
そんなあなたに京アニのすごさや職人と呼ばれる理由を説明したいと思います。

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なぜ一部にしか知名度がないのか

海外などでも話題になっているのに、どうして知らない人がいるのでしょうか。
これは一つの理由ではないのですが、まず京アニは基本的に深夜アニメの制作を行っているというのが大きいです。

昼間仕事をしている人からすれば、深夜に何が放送されているのかあまり関心がないですよね。
事実深夜時間帯は、ドラマやマイナー映画の再放送とか、通販番組とかが放送されており、そもそも視聴率自体が高くありません。

深夜アニメもその中の一つで、昼に活動している人にとっては接点があまりないのです。
昼間から夜のCMと深夜のCMが全然違うことからも、まず視聴者層が全然違うわけです。

2016年に公開された京アニ作の映画「聲の形」では

  • 第40回日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞
  • 第26回日本映画批評家大賞アニメーション部門作品賞
  • 第20回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞作

を受賞しており、過去にこれらの賞を受賞しているのは、ジブリだとかエヴァンゲリオンだとかクレヨンしんちゃんとか比較的に知名度のある作品が入っています。

同列に語られてもおかしくないのですが、同作の公開規模が狭く公開館数120館(拡大後は210館)に収まっています。
にもかかわらず、計動員177万人、興行収入23億円(2016年度日本映画10位)と凄まじい記録を持っています。

ただ内容が結構重く、聴覚障害者へのいじめなど一種の不快感を覚える描写があったことも、「君の名は。」ほど広まらなかった原因かなと思います。

実際「君の名は。」は普段アニメを観ない層でも、あまりの話題性に観に行く人が多かったです。
(単純に宣伝、プロモーションの差もあると思います)

コア向けなすごさ

もう一つ大きな要因として、すごさが伝わりづらいというのがあります。
わかりやすい爽快なストーリーの方が拡散されやすいですよね。

例えば子供が観ても楽しいとかですね。
子供だけでなく、大人が観ても面白いとかはジブリ作品が多いと思いますが、京アニの作品は割と大人向けな印象です。

雑な言い方をすれば、ある程度視聴者側から歩み寄らなければならない作品という感じでしょうか。
そしてそのすごさは結構地味です。

京アニが得意としているものに人の機微、表情、心情を描くというのがあります。
何気ない日常の中にあるものを映像化するといった、ストーリーだけでいうと正直面白くないと思います。

わかりやすい敵がいるわけではなく、微妙な変化、成長を描いている作品が多いんです。
しかもそれらはちょっとしたキャラクターの仕草やいくつものメタファーで表現されており、わかりやすいセリフなどに落とし込まれていなかったりします。

一言で言ってしまえば、わかる人にはわかる作品であり、「それが何なの?」と言われてしまえば何も言い返せません。

ではそろそろ京アニのなにがすごかったのかを書いていきたいと思います。

京アニの何がすごかったのか

京アニのすごさを語るにはいくつかあるのですが、わかりやすいものとして作品に対する姿勢です。
その姿勢は丁寧な作品を作る上でとても重要になります。

徹底した丁寧さ

これは写真ではなく絵なんですよ。
ただアニメーターに言わせれば、こういった丁寧な絵というのはそこまで難しくはないそうです。
(どこのシーンかとか、時間をかけられるかとかの制約はありますが)

もちろんこういったきれいな絵だとか安定している作画だとかは、週一アニメにおいて多くはありません。
ただやろうと思えばできるアニメ会社は結構あります。

でももっと別のところにすごさがあるとぼくは思っています。
徹底した丁寧さは職人技。

漫画家兼アニメーターの方がツイートしてくださっており、そちらの方がわかりやすいので引用します。

各キャラクターの動かし方がすごく丁寧で、ちょっとした意味のない動作や会話にもこだわりを感じます。
またほとんどのモブキャラにも名前がついており、メインキャラクターの後ろに映り込んだ際の動きに性格や関係性を出しています。

そんなこと週一アニメでやっているところほとんどないですよ。

「アニメには偶然映り込んだものはない」というのはよく言いますが、本当の意味でそれを体現している稀有な例でしょう。

再現度や表現力

本来であれば描かなくても成立する部分、描写するには手間がかかりすぎる箇所もあえて行います。

ぼくの知っている範囲ですが、「涼宮ハルヒの憂鬱」「けいおん!」「響け! ユーフォニアム」では楽器演奏シーンがあります。
これらすべてで行われているのが、アニメーションと音を一致させている点です。

弦楽器や鍵盤楽器、管楽器などの運指を忠実に再現し、それをアニメで動かしているんです。
また作画ではなく録音になるのですが、演奏ミスやテンポのズレ、技術の巧拙、キャラの心理状態での音の変化などありえないほどこだわっています。

もう脅威ですよね。

楽器(などの小道具)を持つだけでも重さを感じさせたり、不自然な体勢になったり意外と再現するのが難しいと言われますが、どのキャラも当たり前に自然に持っていて、演奏中の細かな動き、力の入り方なども細かく再現されています。

京アニ作品では構図に注目しても面白いですよ。
構図が独特なのも、それによって表現したいものがあるからです。

不自然にキャラクターの後ろに空間を作っています。
上の2つのカットは2人の人物が向き合って会話しているシーンなんですが、他人に対して境界線を引いて接してきた主人公(画像上)が相手(画像下)と対話する中で境界を越え踏み込んだという演出です。

また足元だけのカットも京アニでは比較的によく見ますね。
(「人は足に一番感情が表れる」と話す山田尚子の絵コンテだけかもですが……)

足元以外にも頭の上部だけが歩いているカット、手だけのカットなどそれ自体に意味を持たせるのも秀逸だなと感じました。
表現方法も非常に多彩で、泣いている描写を後述するレンズ(フレア)で、画面自体をぼやけさせるのも他にはない演出だったと思います。

ちなみに京アニのキャラの脚は他のアニメ作品より太く描かれていて、界隈で好きな人は多いです。

撮影処理、仕上げもすごい

もともとタツノコプロやサンライズの仕上げの仕事から始まった京アニなので、仕上げや撮影処理はやはり目を見張るものがあります。
「響け! ユーフォニアム」以降はとくに顕著です。

これ劇場版じゃないんですよ。
ショートPVですけど、このレベルを30分アニメで毎週やってることが異常です。

撮影処理でのレンズ効果の使い方にも毎回こだわりがあります。

被写界深度を変えて一部をぼかしたり、フレアやゴーストなども目立ちます。

これらの光学現象は他のアニメ制作会社の作品でもありますが、京アニの使い方は非常にうまいと感じています。
先ほども書きましたが、レンズの効果をキャラクターの心理描写に多用しているイメージです。

作品へのリスペクト

原作ありの作品をアニメ化する際には、尺の都合や監督によって忠実に表現するか、ストーリーを大きく変更するかの違いがあります。
また演出方法や細かな設定など、きちんと共有できていないととんでもないことになります。

事実アニメ化でファンからめちゃくちゃ叩かれたり、製作側と原作側で揉めたりといったことは意外とあります。

しかし京アニでは基本的に原作を忠実に再現することが多く、丁寧に映像化したり、原作をさらに良くする(という言い方も変ですが)ので京アニ制作を喜ぶ原作者も多いです。
逆に京アニが映像化したことにより、大ヒットした「ハルヒシリーズ」「けいおん!」などは売れすぎたことによるプレッシャーなどで続編を書かなくなる(諸説あり)とも言われています。
一応「けいおん!」は連載再開されていますが……。

原作をアニメ化するにあたり、割とマイナーな作品を取り上げることが多いですね。
その最たるは京都アニメーション大賞の発足でしょうか。

でも原作への愛情と敬意はとても大事にしているのがわかります。

制作に関してはすべてお任せするつもりでいました。しかし京都アニメーション社制作陣の皆様の、一緒に作ろうという強い熱意に打たれ、及ばずながら私も準備段階に加わることになりました。
物語というのは得体の知れないもので、きらめきがあるお話でも、ちょっとしたことですべてが色褪せてしまいます。
制作陣の皆様は、忍び寄る色褪せを退け、物語を十全に生かそうと、懸命の努力を続けて下さいました。
ロケーションハンティングの際に良い場所を見つけた時や、ここが小説のイメージに合う場所ですとお伝えした時など、制作陣の方々は目の色が変わって、私などはなまなかに近寄れぬ真剣さでもって資料を集めておられました。
(引用元:汎夢殿(氷菓原作者・米澤穂信のブログ)*

会社の体制

京都アニメーションの企業理念「人を大切にし、人づくりが作品作り」のとおり、京アニは人材の育成にも力を入れています。
正社員での雇用なのでアニメ業界の中でも給料は比較的に高く、ホワイトだと言われています。

演出、作画、仕上げ、美術、撮影、デジタルエフェクトまでを自社で行うことにより、極端に品質が落ちることもありません。
自社で完結している分スケジュール管理もしやすく、情報の共有ができ、丁寧な仕事にも繋がっています。

これらの社内体制は他のアニメ制作会社では見られず、社内のアニメーターの平均レベルも非常に高いです。
京アニ出身というだけでも業界内では高く評価されます。
ブランド力はジブリに次ぐレベルと言っても過言ではないでしょう。

都内のアニメーターであればいろんな制作現場を転々とすることが多いですが、賞与もあり、福利厚生もしっかりしているので在籍しているアニメーターが安心して働ける環境と言えます。
そういう環境だからこそ、新人の育成にも惜しみなく投資でき、良い循環を生み出せているのだと思います。

元京アニ社員の人に「日本国内でアニメーターにとってここ以上に恵まれた環境はない」と言わせるほどです。

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まとめ

京アニが築いてきた環境があり、その中で生み出されていた高品質な作品。
アニメのクオリティはいろいろな要素があり、他にも素晴らしいアニメ制作会社はありますが、京アニは間違いなくトップクラスだとぼくは思います。

これからも素晴らしい作品を作ってくれるであろうアニメ制作会社だったのに今回の事件が衝撃過ぎて、なんとも言えない気持ちです。

連日の報道ではアニメ界の損失、文化的損失、日本の宝との見出しが目につきます。
そこにはちゃんと職人と呼ばれる理由があったんです。
アニメを観ない人からすれば全然わからないと思ったので、今回京アニの何がすごかったのかを書きました。

ただ放火されたのが京アニだったからというより、こんな異常な惨劇はあってはならないことだし、二度とこういったことは起きてほしくないです。